カテゴリー別アーカイブ: インタビュアー失格

ライバルの製品名言っちゃいました!

インタビューでは、気持ちよく相手に話してもらう雰囲気づくりが大切ですが、時には、そんな雰囲気を台無しにするミスを犯してしまうことがあります。典型は取材相手の名前や社名や製品名を間違えたりした時。また、ライバル社のサービスや製品と混同したり、製造していると知らずにライバル社を誉めてしまうという恐ろしいミスもあります。
今、考えても青ざめるのは、さかのぼること数十年前。某家電メーカーの消費研究所の所長さんに、ライフスタイルと家電のデザインや色の変化についてお話を伺った時のことです。所長さんは、論客としても有名な方だったので、あらかじめ論文やインタビュー記事などを念入りに読み、準備万端(のつもり!)で臨みました。
私:「お話をテープにとっていいですか?」
当時はICレコーダーはまだありません。
私は、テープレコーダーを前に置きました。
所長:「それは、何ですか?」
私:「は? ウォークマンですよ!!」
当時はウォークマンの全盛時代でしたが、所長さんは、かなりの年輩。恐らく、録音機能つきのウォークマンを知らないのでしょう。
「このマイクを使えばステレオで録音できるんですよ。カセットテープのケースにマイクをはさんで固定させてるのは、けっこういいアイデアでしょ?」
私は、自慢の真っ赤なウォークマンを見せながら、一生懸命説明してあげました。
所長:「……」。
そのまま滞りなく取材は終わったのですが…。
後日、テープ起こしをしている時に、ふと気づきました。
よく考えれば、家電メーカーの研究所の所長がウォークマンを知らないはずはありません。
「それは、何ですか?」=「ほほう。それはソニーさんの製品ですな…」という意味に違いありません。本来なら、「いつもは御社の製品を使っているのですが、今日は、たまたま調子が悪くてソニーさんのを使ってるんですよ(笑)」などと応えるべきだったのに、ウォークマンの説明をトクトクとしてしまいました。
う~~~~。恥ずかしい! 研究所ということばにひっぱられて、メーカーだということをすっかり忘れていました。
このようなミスを防ぐためには、下調べをしっかりするしかありません。取材とは直接関係がなくても、関連会社、広告、業績、ヒット商品などをきっちり調べることで、新情報はもちろん、忘れていた情報を思い出すこともあります。思いこみも訂正できるはずです。当然、今では、ライバル社を誉めるような大失態はなくなりましたが……。
ミスタードーナッツとダンキンドーナッツの言い間違え、小諸そばのメニューと富士そばのメニューの混同といった思いこみと勘違いは、なかなか無くなりません。まだまだ下調べが足りないようです。決して、年のせいではありません。
■今回の失格言
『気をつけよう思いこみと勘違い』


第8回 真っ青になりました。~取材の時のファッションとは?~

振り返ると、今夏は実に暑かった。
インタビュアーにとって…というよりも「汗だく星人」な私にとって、夏の暑さは実にキツいものです。
なにせ夏場の取材となると、私はオールウェイズ・汗だくだく。
だから、必ずインタビュー相手に言われるのです。
「あ、暑かったら、どうぞジャケット脱いでください」(←はい。と即座に脱ぎます)
「ああ、エアコンちょっと強めますね」(←助かります)
「あれれ、今日、雨ふっていましたっけ?(笑)」(←いじめでは?)
だったら、最初からポロシャツなりでいきゃいいのに、という話もあるのですが、基本的に取材の際は「相手と似た格好をする」というのがセオリーです。
例えば、びしっとしたカタめのビジネスマン相手なら、やはりこちらもスーツにネクタイで伺う。逆にこだわりもったアメカジショップオーナーが相手なら、例えばこちらもチノパンにデニムシャツで、といった具合です。
「スーツならば失礼は無いだろう」と思われる方もいるかもしれませんが、ジーンズにTシャツ姿の相手の前に、ガチガチのダークスーツのインタビュアーが現れたら「なんだか話しづらいな…」となかなか胸襟を開いてもらえないものです。逆に、年配の会社社長の前に穴のあいたジーンズ姿で現れたら、怒られかねません。
ようするに、インタビュアーにとってのファッションは、自分ではなく「相手のためにある」と考えるのが正解。良い記事を作成するためには“気持ちよく相手に話してもらう“ことがなにより大事だからです。ファッションはそのための環境づくりであり、インタビュアー自身のファッション・ポリシーやら好み、はては「暑い・寒い」なんて二の次、三の次になる、というわけです。
その日も、暑い、暑い夏の日でした――。
媒体は独立起業に関する情報誌。
取材相手はネットでショッピング代行を手がけていた個人事業主の方。
カタからず、やわらかすぎず、という職業の相手だったので、守備範囲の広い「ノーネクタイでジャケット着用」というスタイルで、取材先の渋谷のカフェにうかがいました。
「あ……ハンカチ忘れた」
それに気づいたのは、当時住んでいた最寄駅に着く直前でした。これから家まで戻ってハンカチ一枚を取りに行くのは、実に億劫。なので、駅前の100円ショップにてバンダナを購入。これをハンカチとして使うアイデアを採用しました。
「ヴィンテージのアメリカ古着なんかも扱っている人だから、バンダナって感じかな」
中途半端に色気を出したのが、いけなかったのかもしれません。
取材そのもは実にスムーズに進行しました。
「学生時代からずっとファッションが好き」「しかし、地方都市の田舎町ではほしいものが手に入らない」「雑誌でみたあのブランドがほしいから上京していた」「出費と時間が実に無駄」「ならば『かつての自分』を相手にビジネスを!」「そして思いついたのが、ブランド品のショッピング代行だった」。
スムーズじゃなかったのは、取材場所となったカフェの空調。35度近い猛暑のせいか、極めて効きが悪く、取材序盤から私の額や脇は汗ダクダクに。あっというまに汗だく星人になっていたのでした。もっとも――。
『100円でバンダナ買っておいてよかった』
密かにそう思いながら、噴き出る汗をぬぐいつつ、ふんふんと取材はつづいていました。
が、そのとき突然、取材相手の表情が一変。
そして、こんな一言を私に放ちました。
「あの……顔、青いですよ」
え? そんなまた。えらく暑いとはいえ、顔面蒼白になるほど体調悪くないですよ~、なんて笑って返したのですが、「そうじゃなくて」と返されつつ、同行していたその方のスタッフに小さな手鏡を渡されました。
そして、驚きました。
『白昼、渋谷のカフェにブルーマン(http://blueman.jp/dir/about/index.html)あらわる!』
いや。あそこまで青くないのですが、何か青鉛筆で雑に塗りまくったかのように顔全体がうすら青く。理由はもちろん、青いバンダナ。噴き出る汗を拭うたび、未洗濯のバンダナから染料が、私の顔にいちいち塗布されていった、というわけです。結果、不健康というか不気味というか、まるで不可思議な青いいきものが誕生。”汗だく”を退けようとした結果、「星人」だけが残ってしまった、というわけです。
以来、私のジャケットのポケットにも必ずハンカチが入っています。
さらに取材バッグには、必ず予備ハンカチと予備予備のタオルハンカチまで常備する気合の入れようです。
もちろん、色は青以外で。
■今回の失格言
バンダナを買ったら、必ず洗濯してから使うべし。


第7回 イケないモノ、見られちゃいました。

前回、下調べについて触れましたが、さらに補足すると、インタビューの時、取材相手が本を書いている場合は、事前に読むだけでなく、取材中、机の上に置くようにしています。
そうすれば、取材相手に「予備知識がある」「コンテクストは共有されている」ことが伝わるので、話がスムーズに進むし、著書の内容よりも突っ込んだ話をしてもらいやすくなります。
また、「本を買った」という事実が心の距離を縮める効果も見逃せません。
これは僕に限らず、同行する編集者の大半が実行しているので、業界の常識なのでしょう。

さて、本を机の上に置くこと自体は良いと思うのですが、
余計なことをしたせいで、取材の雰囲気が気まずくなったことがありました。

某誌の投資関係の記事で、ある評論家の先生を取材したときのことです。
この取材は、下調べの時点から、イヤなムードがたちこめていました。
「必勝の買い方」について書かれた著書を読んだのですが、何が何だかさっぱり分からない。
「僕の知識不足か?」と思ったのですが、担当編集者も「分かりませんね」。
結局、内容が薄く、肝心なことが書かれていないのです。
「この取材、期待できそうにないですね…」などと話していました。

で、当日。
当然ながら、本人に対しては、疑いのまなざしなど向けられません。
機嫌を損ねたら、聞けるものも聞けなくなります。
ご本人も、「この本、初心者向けに、けっこう分かりやすく書いたんだよね~」。
「ですよね~」というスタンスで、話を伺っていました。
ところが、取材途中に、予期せぬ出来事が。
「その話は、ココを見てもらうと分かるんだよな」と言うや否や、
先生が、私が机の上に置いた著書を手に取ったのです。
「あっ!」と思ったときには、もう遅かった。

普段、僕は本を読みながら、大事なところにアンダーラインを引いたり、感想を書き込んだりするタイプなのですが、この時は、内容の薄さに腹が立ち、ついついネガティブな感想を書きまくっていたのです。
たとえば、唐突に出てきた専門用語に対し、「は!?」と書いたり、
分かりやすくまとめた(とおぼしき)部分に「うーん…」「意味わからず」と書いたり…。

言い訳すると、机の上に載せるその他のものには、取材相手を不快にしない気配りをしていました。
たとえば、質問項目を印刷した紙やノートに、相手を否定するような書き込みはしませんし、相手の名前を書くときは必ず「様」「さん」をつけます。また、ICレコーダーの電池が途中で切れないよう、なるべく早めに変えています。
しかし、詰めが甘かった。

書き込みを見た時、先生の表情はとくに変わらず、思い過ごしかな? と思えたのですが、後日、この先生と、原稿確認の段階でちょっとモメました。
仕返しとばかりに、「これでは意味不明です」「何も分かっていませんね」。
…今後は、本の書き込みにも注意しなければ。

でも、書き込まないと、内容が頭に入っていかないのも事実。
正直、解決策が思い浮かんでいません。2冊買い? うーむ…避けたいところです。

今回の失格言
そもそも そんな人に アポとるな


第6回 しゃべり過ぎちゃいました

インタビューを成功させるための鉄則は、事前に取材相手のことをよく調べておくこと。
著書、新聞・雑誌・ネットの記事、出演番組…。これらをチェックし、これまでの経歴や人となり、考え方などの予備知識を得ておくのと、得ていないのでは、インタビューの結果は大違いです。メリットをいくつか挙げると、
・何度も出ている話をせずに済むので、時間の節約になり、重要な質問に時間を割ける
・「あの記事ではこう書かれていましたが、実際この時どうお考えだったのでしょうか?」とより突っ込んだ質問ができ、それがハマれば、他誌にはない情報を引き出せる
・趣味やプライベートな話で盛り上がることで、会話のキャッチボールがしやすくなる

といったところでしょうか。
逆に、下調べが甘いと、表面的な質問に終始してしまい、薄っぺらい記事しか書けなくなる。また、それが相手にバレると、取材の雰囲気がものすごく悪くなることもあります。
というわけで、ライターになった頃から、最低限の下調べはしているのですが、
「下調べすればいいわけじゃない」ということを思い知らされた出来事がありました。
それは10年前。某月刊誌の「私の創業ヒストリー」といった記事の取材でした。
取材先は、ITベンチャーの旗手として、世間でも注目を浴びていたキレ者社長。
一方の僕はというと25歳(当時)。それまでビッグネームに取材をした経験がないペーペーで、しかも当日は編集者が同行しないことに。
「僕一人で大丈夫だろうか…」
ガチガチに緊張してきました。
その不安を少しでもぬぐい去ろうと、雑誌やネットのインタビュー記事を手当たり次第にかき集めました。そして前日から読み込み、プロフィールや考え方を暗記するほどに。よし、これだけ覚えれば、「そんなことも知らないの?」とは言われまい。きっと大丈夫――。
さて、取材が始まりました。下準備の成果を発揮するぞ!
僕「まず、開業のきっかけからなんですが、意識された時期は、やはり大学時代にソフトウェア会社で働かれていた時ですか?」
社長「そう…ですね、はい」
僕「そちらで仕事をされている時に、今後就職するというよりも、これからインターネット系のビジネスをしていこうと思ったわけですね」
社長「そう…ですね」
僕「で、○○に書かれていたのですが、ご友人と3人で起業されたそうですが、大学で価値観の合うご友人と知り合ったそうですね」
社長「……ええ」
文字にすると、何がいけなかったのか、よく分かります。
一言でいえば、「下調べの確認作業に終始していること」。
確かに質問なのですが、答えも僕がしゃべってしまっているわけですね。
これでは、相手は「YES」か「NO」でしか答えられません。
営業でも合コンでも、会話を盛り上げる基本は「相手に話してもらうこと」。
「YES・NOでしか答えられない質問」は、その対極といえるでしょう。
インタビュアーがそれをやってどうする!
もちろん、この取材は失敗に終わりました。
「確認作業」ばかりしていたので、話が盛り上がらず、そのまま取材時間が終了。
とりたてて面白い話を引き出せず、原稿も薄っぺらい内容になってしまいました…。
この「確認作業」をいつ反省したのかは忘れたのですが、
今では、インタビューの冒頭で、どの著書とインタビュー記事を読んだかを伝えると共に、「改めて教えていただいてもよろしいですか?」と言うようにしています。
そして、「まず、○○さんの営業の基本スタンスを教えてもらえますか?」などとYES・NOでは答えられない質問をしています。
こうすると、相手が「ここまでは知っているだろう」と判断し、回答をこちらに合った形にアレンジしてくれる。また、相手も話しやすいことが分かったからです。
今回の失格言
知ってても 話さないのが 心意気


第5回 咳こんじゃいました

まだ、喫煙者だった頃のことです。当時は1日3箱近く吸うヘビースモーカーでした。ヘビースモーカーは、常にタバコのことを考えています。取材が始まる前には、「これから1時間はタバコを吸えないから、今のうちにタバコを吸っておこう」と早めに行って灰皿を探し、取材時間ギリギリまで寸暇を惜しんでタバコを吸い、終わった後は「1時間の禁煙は辛かった」と力一杯タバコを吸うといった具合です。
嫌煙権が強くなるとともに、タバコには思わぬメリットも出てきました。それは、取材相手が喫煙者の場合です。
取材相手:「タバコを吸いながらでも、よろしいでしょうか?」
私:「どうぞどうぞ。実は、私もかなりのヘビースモーカーですので」
取材相手:「なら、一緒にどうぞどうぞ」
私:「そうですか? スミマセン(プカ~)」
取材相手:「最近は、嫌煙権が強くなって大変ですな。(プカ~)」
こんな風にマイノリティ同士の親しみがこみ上げ、いきなりうち解けるわけです。時には、「オフレコで」と、貴重な話を聞かせてくださいます。取材が終わった後に、取材者の方と喫煙所で鉢合わせをして、そこから事業の裏話などを教えて頂けたこともあります。
ところが…。
長年の喫煙がたたり、いつの頃からか、咳がひどくなってきました。ちょっとした風邪でも、恐ろしいほど咳こみむようになったのです。いったん咳が出始めると数十分止まらないということもありました。こんな状態で取材などできるはずはありません。
最初のうちは、取材前に、「即効性がセールスポイント」の顆粒状のクスリを飲んでいましたが、耐性がついたのか、症状がひどくなってきたのか、だんだん効かなくなってきました。やがて液体のせき止めシロップを愛用するようになり、最終的には、シロップを飲んだ上に、なおかつトローチを口の中に隠して、取材時間をしのぐというレベルにまで達しました。
そして、ある時、やってしまいました。
質問している最中に、ゲホゲホッ!
相手が話している最中にゲホゲホッ!
出された熱いお茶を飲めば、体が温まり、ますます咳がひどくなります。
広報の方が、あわてて水を持ってきて下さいました。
冷や汗がどっと出てくるし、頭の中は真っ白です。
取材時間は、どんどん減っていきます。
それでも必要なポイントはなんとか抑えて、逃げるように取材先を後にしました。
「ふぅ~~。焦った」
外に出ると、不思議に咳は収まり、懲りもせずにまた一服。
トラブルの後の一服は、また格別の味わいです。
ところが、原稿を書こうとテープを再生すると…。
「ゲホッゲホッ……」。
録音されているのは、自分の咳の音ばかり。せっかくのお話は、咳の音にかき消されてほとんど聞こえません。補足資料を必死にかき集め、原稿を仕上げるまでに、非常に苦労をしました。
もちろん、今は、タバコとすっぱり縁を切り、咳ともおさらば!
さわやかな取材をしています。
今回の失格言
せき込んで、話せないほど タバコは吸うな!