1月7日、新聞各紙が日産自動車の新たな制度シニア・イノベーション・リサーチ(SIR)」を発表しました。
headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120106-00000007-fsi-bus_all
社内外から研究職を公募する制度です。身分は3年間の嘱託扱いの契約社員。正社員の場合、制度の対象者に決定すれば、契約社員になるためにいったん会社を退職します。仮に優れた成果を上げれば、数千万円の高額な報酬が得られますが、思わしい成果が出なかった場合に再雇用される補償はありません。終身雇用に慣れた世代にとっては、極めてハイリスクハイリターンの制度に見えますが、すでに3人の社員が対象者に決定し、退職手続きをとったそうです。
バブル崩壊後、終身雇用・年功序列制度は徐々に崩れ、成果主義に移行していきました。しかし、成果のあげやすさは、部署によって違います。そこで広がったのが、企業からみればチャンスの平等。社員から見れば、「自分のキャリアプランは自分で決める」という考え方です。個人が自分のキャリアを選べる制度を用意する企業が増えていきました。社内公募制度、社内ベンチャー制度、プロジェクトの提案制度などはその代表です。
しかし、せっかく制度を用意しても、当初はなかなかうまくいきませんでした。伝統的な上司は、部下の進路は上司である自分が決めるものと考えていたので、部下が勝手に好きな部門や好きなプロジェクトに応募することを好まなかったからです。中には「オレよりもアイツの下で働きたいのか?」「この忙しいのに抜けるとは、自分勝手でケシカランやつだ」などと考える上司もいたそうです。多くの部下は、「もし応募すれば、上司は自分に反感を持つはずだ」→「選考に漏れれば反感を強めた上司の下に働くことになる」→「応募はあまりにもハイリスク」→「公募制度は絵にかいたモチだ!」と考えます。
公募制度の定着に熱心な企業は、「応募は人事部経由、面接は日曜」「プロジェクトは社長直轄」「研究期間は別室で」といった上司の影響を排除する方法を次々に編み出しました。一方、「優秀な成績に対する報奨として好きな部署に異動できる」「成功した場合の報奨と失敗した場合のペナルティを自分で決める」といったユニークな制度も登場しました。
こうして過去の話題になった公募制度と比較してみると……。冒頭にイリスク・ハイリターンと書いた「シニア・イノベーション・リサーチ(SIR)」は極めて真っ当な制度に見えてきました。いいかえれば、公募制度がやっと普通の制度になったことを示しているのかもしれません。