カテゴリー別アーカイブ: インタビュアー失格

第4回 取材中、眠っちゃいました。

取材日当日、インタビュアーが絶対にしてはならないものの一つに「遅刻」があります。
いうまでもなく、それはインタビュアーというより、社会人として最低限のマナー。
「話を聞かせろ」「時間くれ」と自ら図々しいことを頼んでおいて、約束の時間より遅れて登場するとは、失礼極まりないわけです。
さらに、取材場所はたいてい「相手のホーム」である場合が多いもの。サッカーでもアウェイ会場では力を存分に発揮できません。慣れない場所で慣れないまま試合にのぞんではインタビューもぐだぐだに。ひいてはその後手がける原稿のデキも左右する、というわけです。
だからして、私はなるべく早めに取材先に向かい、例えばそこが会社ならロビーでちょっと時間をつぶし。場の雰囲気に存分になれ、気持ちのウォーミングアップをすませたうえで、約束の5分前くらいに「取材で伺いました、カデナクリエイトの…」と受付に向かいます。
普段なら――。
その日、恐ろしい時間に、恐ろしい電話がかかってきました。
「箱田さん、いまどちらですか?」
聞こえてきたのは担当編集者の声。
時計を見ると午後の2時。
それはまさに取材開始時刻。
某飲食店のオーナーに「店の立ち上げまでの苦労やアツい人生観などを伺う」という某雑誌のいちコーナーの取材時刻が、まさにそのとき、その時刻なのでありました。
「いまどちらですか?」の問いに、まさか「自宅のベッドの中です」と正直に答えることなどできませんでした。
「すいません! 前の打ち合わせが長引いちゃって、いまやっと終わったんです! これから伺います!!」
間違いだったのは前日、というかその日の朝10時くらいにやっと原稿を入れて、風呂に入って、「ちょっと小一時間ほど仮眠をとろう…」なんて甘い見積もりで夢の中へ入ったことでした。とにかく、速攻で着替えて、家を飛び出し、タクシーをひろい、急いで取材先へ。おもいきり40分以上も遅れて取材先へたどり着きました。
おお、良かった。取材対象である店長さんも、広報さんも、担当編集者もカメラマンも皆で楽しそうに談笑している。笑顔で迎えてくれました。
「いやいや、すいませ~ん。思った以上に前の打ち合わせが長くて、途中で電話もできなかくて…」。実にウソくさい謝罪という名のいいわけを済ませ、すぐにインタビューへ。
その方は以前はセミプロのミュージシャンとして活躍。しかし、結婚して子供もできて、年齢的にも無理できなくなって、これまでの夢をあきらめました。しかし、今度は新たな夢を追いかけようと決めて、一生懸命修行して飲食店の店長になった……と、感動的なお話をしてくれていました。
「自分がしたことで、目の前の誰かが喜んでくれる。これって音楽も料理も一緒なんじゃないかなって……」(取材対象)
「なるほどね~……」(私)
その部屋が暖房が効きすぎていたところもあると思うのです。
耳障りのいいボサノバ系のBGMもいかんのですよ。
私のもとに二度目の危機が訪れました。
「ね~…」と語尾を伸ばし、目をつむったら最後、瞼が開きません!
まだ完全に起ききれていないところで、目を閉じるという行為をはたらいたところ、睡眠欲のスイッチが突然オンになったのです。
眠い。ヤバイ。マズい。
あせっても、あせっても、目があかないのです。(ダメ)人間だもの。
「…………(ぐぅ)」
あ、ちょっといびきすらかいた気がします! イカンと、気合いをふりしぼり、なんとか声をひり出します。
「す…そ…そうですよね~……」
ダメだ。それでも目が開かない。しかたないので鼻をすすり、目頭をおさえます。『私はいま、声が出ないほどの大きな感動を味わっているのだ』のサイン。そんな小芝居でごまかしつつ、ギュギュ~っと、渾身の力で眉間をつねりました。ぶはっ! なんとか目が開いた!
「…ところで、このお店をはじめられる前のご職業は?」
「それ、さっきも答えましたけど(怒)」
取材日当日、インタビュアーが絶対にしてはならないものの一つに「居眠り」があります。
いうまでもなく、それは社会人というよりも、人として最低限のマナーです。
■今回の失格言
「遅刻」して、しかも「眠る」じゃあ、人間失格。


第3回 忘れ物、しちゃいました。

ライター三種の神器といえば、「メモ帳」、「ペン」と「ICレコーダー」の3つ。「ICレコーダーがあればメモはいらないのでは?」なんて意見もあるかもしれません。ですがレコーダーがあっても、取材中のメモはかなり重要です。まず、話を聞きながらメモを取っておかないと、取材中に「この話は聞いた」とか「ここの情報が足りない」という情報の整理ができなくなります。加えて、万が一ICレコーダーで録音できていなかった場合、手書きのメモだけが取材の命綱になります。
それと、メモには記録以外の重要な役割があります。メモをきちんと取ることが、取材相手に「私はあなたの話をちゃんと聞いていますよ」というアピールになるわけです。これがまったくバカにできなくて、相手に「この人、ちゃんと話を聞いているんだろうか?」と疑われてしまっては、聞ける話も聞けなくなります。つまり、インタビュー時のメモは取材相手に対する礼儀でもあるのです。
……と、こんな偉そうなことを書いておいてなんですが、私はメモに欠かせないペンとノートを持ち忘れる悪いクセがあります。取材直前にコンビニでノートを買ったことは2度や3度ではありません。つい先日も取材に愛用のボールペンを持ち忘れてしまい、大変な目にあいました。
それは某月刊誌の仕事で、ファイナンシャルプランナーの先生にデフレ問題について伺う、やや堅めの取材でした。応接室に入り、カバンから使い慣れたICレコーダーを机に出し、ノートを出し、愛用のペンを……ない! いつもはカバン内のペン入れスペースに収まっている黒のボールペンがどこを探してもないのです。いや待て、何かほかに書くものが入っていたはずだ、とガサゴソとカバンの中を探すと、あ、あったぞ! 「オレンジ色の蛍光マーカー」が! ……け、蛍光マーカー!?
それでも何もないよりはマシかと気を取り直し、取材に臨みました。もちろん、私が蛍光ペンでメモを取っていることがバレないよう、ノートを立てて手元を隠して。ところが、ノートを立てすぎたのがよくなかったのか、マーカーが水平になってインクが非常に出づらい。ただでさえ蛍光で色が薄いのにもっと字の色が薄くなってしまって、自分でも何を書いているのかさっぱりわからなくなってしまう始末。
とはいえ、相手に話を聞いていることをアピールするために、手を休めることもできない。いつの間にかノートは薄オレンジ色の読めない文字でいっぱいに。心なしかカメラマンも後ろから私の手元をチラチラ見ているような気がして非常に恥ずかしかったのを覚えています。当然と言うべきか、気が散ってあまり良い取材ができませんでした。まさに「インタビュアー失格」。今思い出しても非常に苦い経験で、蛍光マーカーを見る度にチクチクと心が痛みます。
というわけで、今回の「失格言」はこちら。
筆記具は常に多めに持ち歩け!(蛍光マーカー以外)


第2回 怒らせちゃいました

ある有名ジャーナリストは、「取材は相手を怒らせることから始まる。思わず本音が出るからだ」と話していました。自分の場合は、そんな厳しいジャーナリスト道を目指す力量も勇気もありませんから、もっぱら穏やかな、にこやかな取材です。が、時として、「もっと深く聞きたい」という誘惑にかられることはあります。
そして、一度だけ、やってしまいました。
媒体は、ビジネスマン向けのスクールの会報誌のトップインタビューでした。取材相手は、スクール生の関心が高かった有名なベンチャー起業家。著書には、中学・高校時代にワルだった話と、起業家として成功していくストーリーが面白く書いてありました。ところが、不良学生が起業家になった経緯が全く書かれていませんでした。他のインタビュー記事を調べても、書籍の焼き直しのような内容ばかり。この経緯を聞けば、他誌と大きく差がつくはずです。
あらかじめ提出しておいた質問表に沿って質問を始めました。
私:「そもそも、どうして起業されたのですか?」
社長:「そんなことよりも、事業を拡大したきっかけは…」。
私:「あの…。事業を始める前は、どこかに就職したのでしょうか?」
社長:「うん。とにかく、従業員の教育には、かなり苦労しました…」
何を聞いても、本に書いてある内容と同じことばかり返ってきます。
私:「それでは…。大学生の時には、どんな若者だったのですか?」
社長:「さっきから何だ!? ふ~ん。分かったぞ。オレの過去を聞き出そうとしてるんだな!もう話すことはない!」
なぜか、いきなり部屋を出ていってしまいました。
「仕方ないですね…。ということで、お引き取り下さい」。
秘書の方も、そういうと、社長の後をついて、さっさと部屋から出ていってしまいました。
担当者と私は茫然自失…。
質問表をあらかじめ出しておいたのに…。
と思っても、後の祭。取材は、そのまま没になりました。
後日、この会社はちょっとした不祥事を起こしました。ところがテレビの記者会見で社長は謝罪をするどころか逆に開き直りスキャンダルに発展。担当者から、「誰に対しても、ああいう態度をとる人だったんだね。やっぱり気にすることないよ」と改めて励ましのお電話を頂きました。
そう思って安心したいところですが、冷静に考えれば、担当した記事については、相手を怒せるリスクを冒してまで整合性を合わせる必要性はありませんでした。成功談だけでも十分に読者が学ぶところはありました。また、下調べの段階で、特定の話以外は一切しないことに気づくべきだとも思いました。要するに自分が興味あることを聞こうとしてたわけです。
今回の失格言
目的を、はき違えてはいけません


第1回 はじめに

人の話を「書く」ことは、つまり人の話を「聞く」ということ。
ならば、書く仕事をしている我々は、“聞くプロフェッショナル”といえそうです。
だからして――。
「ああ。それで、聞き上手なのか!」
「人の話をひきだすのがうまいよね~」
なんて、ごくまれに、周囲の方々からそんな言葉をいただいたりもする。
ありがたい話です。
そんなときはいつも通り、答えます。
「いやいや。そんなことないですよ」
「とんでもないです。恐縮です」
そして密かに思っています。
『ええ。伊達に失敗ばかりしていませんよ!』と。
確かに我々スタッフは、年間100人以上の経営者、ビジネスマン、文化人、学者、政治家、スポーツ選手といった方々に、インタビューをさせていただいています。
それは自慢なんかじゃ、ちっともなくて、
ようするに、数多くの方々の前で“やっちゃって”いるのです。
「チラっと言った質問で、取材相手が突然激怒! インタビューが中断したり…」
「『どうなんですか? 海老沢さん』と尋ねた相手が『海老沼さん』だったり…」
「目をつむって感動しているふりをしながら、取材途中に居眠りしちゃったり…」
ビジネスの現場では、よく「コミュニケーションの重要性」が説かれます。
たとえば、M&Aの増加や異業種コラボレーションが増え、他者との円滑なコミュニケーションは業績や成果を大きく左右するようになりました。
ところが、地域コミュニティの崩壊や少子化の影響もあり、「人と話すのが苦手」という若いビジネスマンは増えています。
加えて、メールやネットが浸透して、むしろ「面と向かっての会話がどうも…」という方も多くなっている気がします。
とどのつまり、コミュニケーション力というか、ヒアリング能力、
言ってしまえば「インタビュー力」をあげるニーズが盛り上がっているように考えます。
そこで、我々の出番ですよ。
「インタビュー力をあげる方法、教えます!」
ちょっと待て。お前らは失敗ばかりなんじゃなかったか? と思われる向きにあえて言います。
「だからこそだ!」と。
人は自慢話なんかより、失敗談にこそ耳を傾けるものです。
「こんなに儲けたぜ!」って自慢より、「大損した!」って話しのほうが誰かに話したくなりませんか?
ノロケ話より、失恋話のほうが聞きたいですよね?
つまり、このコーナーでは、今後、僕らインタビューのプロが、思いっきりやらかした失敗談をご紹介。
読むみなさんは、「バカだな」「ダメだな」「アマチュアだな」とあきれながらも、気が付けば「オレはこんなことはやらんぞ!」と反面教師的に“ヒアリング能力”“聞く技術”が身に付く、という画期的かつ読者任せの仕事力UPコーナーになっております。
そのままマネてはいけません。