第2回 怒らせちゃいました

ある有名ジャーナリストは、「取材は相手を怒らせることから始まる。思わず本音が出るからだ」と話していました。自分の場合は、そんな厳しいジャーナリスト道を目指す力量も勇気もありませんから、もっぱら穏やかな、にこやかな取材です。が、時として、「もっと深く聞きたい」という誘惑にかられることはあります。
そして、一度だけ、やってしまいました。
媒体は、ビジネスマン向けのスクールの会報誌のトップインタビューでした。取材相手は、スクール生の関心が高かった有名なベンチャー起業家。著書には、中学・高校時代にワルだった話と、起業家として成功していくストーリーが面白く書いてありました。ところが、不良学生が起業家になった経緯が全く書かれていませんでした。他のインタビュー記事を調べても、書籍の焼き直しのような内容ばかり。この経緯を聞けば、他誌と大きく差がつくはずです。
あらかじめ提出しておいた質問表に沿って質問を始めました。
私:「そもそも、どうして起業されたのですか?」
社長:「そんなことよりも、事業を拡大したきっかけは…」。
私:「あの…。事業を始める前は、どこかに就職したのでしょうか?」
社長:「うん。とにかく、従業員の教育には、かなり苦労しました…」
何を聞いても、本に書いてある内容と同じことばかり返ってきます。
私:「それでは…。大学生の時には、どんな若者だったのですか?」
社長:「さっきから何だ!? ふ~ん。分かったぞ。オレの過去を聞き出そうとしてるんだな!もう話すことはない!」
なぜか、いきなり部屋を出ていってしまいました。
「仕方ないですね…。ということで、お引き取り下さい」。
秘書の方も、そういうと、社長の後をついて、さっさと部屋から出ていってしまいました。
担当者と私は茫然自失…。
質問表をあらかじめ出しておいたのに…。
と思っても、後の祭。取材は、そのまま没になりました。
後日、この会社はちょっとした不祥事を起こしました。ところがテレビの記者会見で社長は謝罪をするどころか逆に開き直りスキャンダルに発展。担当者から、「誰に対しても、ああいう態度をとる人だったんだね。やっぱり気にすることないよ」と改めて励ましのお電話を頂きました。
そう思って安心したいところですが、冷静に考えれば、担当した記事については、相手を怒せるリスクを冒してまで整合性を合わせる必要性はありませんでした。成功談だけでも十分に読者が学ぶところはありました。また、下調べの段階で、特定の話以外は一切しないことに気づくべきだとも思いました。要するに自分が興味あることを聞こうとしてたわけです。
今回の失格言
目的を、はき違えてはいけません