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hakoda について

1972年新潟県生まれ。『月刊BIG tomorrow』『Discover Japan』『週刊東洋経済』等で、働き方、経営、ライフスタイル等に関する記事を寄稿。著書に『図解&事例で学ぶイノベーションの教科書』『クイズ商売脳の鍛え方』(共著)、『カジュアル起業』(単著)などがある。好物は柿ピー。『New Work Times』編集長心得。

「『秋葉原から来た』って、いわば『シリコンバレーから来た』に近いんですよ」

東京、秋葉原。「電気街」「ITタウン」「サブカルの聖地」「メイド喫茶の集積地」「江戸っ子の町」――。
玉虫色に輝くこの地で働くあの人は、
なぜココを選び、どんな思いでシゴトしているのだろうか。

Vol.1 安藤拓郎
(「漫画★全巻ドットコム」 株式会社TORICO 代表取締役社長)

マンハッタンで引き籠もる。

同人漫画を専門に扱い年商200億円もあげる『虎の穴』の本店、古本漫画をメインに扱う巨大な『まんだらけコンプレックス』、さらに無数に散らばる漫画を原作にしたフィギュアやDVD、コスプレ衣装を扱う店……。

世界に冠たる漫画文化の断片と、街の彼方此方で出会える秋葉原。
けど安藤拓郎さんがいるその場所は、中でも少し違った漫画の匂いを漂わせていた。

『漫画★全巻ドットコム』。

2006年に立ち上がった漫画を全巻セットで販売するECサイト。その事務所兼実店舗が秋葉原のメインストリートである中央通りから、少し入ったディープなエリア、メイド喫茶とPCパーツショップが入り乱れたエリアに建つ雑居ビルの4階にある。安藤さんは、三方を書棚に囲まれたその部屋にいつもたたずむ。棚に収まっているのはもちろん漫画。『カイジ』『バガボンド』『マカロニほうれん荘』など、新旧も硬軟も織り交ぜた漫画がすべて全巻セットで揃っている。

『漫画全巻ドットコム』。売れ筋は『ワンピース』。最も高価なのは『手塚治虫全集』(約26万4640円)だ


「物流倉庫は千葉にあるのですが、やはり都内にオフィスがあったほうが都合がいい。それなら、やっぱり秋葉原だろうな、と決めていました。漫画の聖地である『秋葉原に本社がある』って、シリコンバレーに本社を持つIT企業みたいなものですから」と安藤さんは言う。

「そもそも僕は『世界と繋がる仕事がしたい』という思いが強かったし」

世界と繋がるシゴトを――。思いは大学時代に芽生えたものだ。夏休みを利用して、男3人で世界一周の旅へ出た。リュックに着替えとチケットだけ入れ、アテなどないまま、アジア、ヨーロッパ、アメリカを回った。言葉も通じなかった。危ない目にもあった。けど、そんな苦労が楽しかった。

「東京で大学生として安穏と過ごしていた生活と一変した。けど、その場所と、得体の知れない海外の路地裏は確実に繋がっていた。けれどリスクが高い分、大きな快感を感じられたんですよね」

同じような快感を就職してからも味わいたかった。だからオラクルに就職。外資系のIT企業なら海外で働ける。「世界と繋がる仕事」ができると思ったからだ。

「ところが、配属先は国内営業」

海外にはほとんど行けなかった。不満を抱きつつもしばらくはガマンした。しかし、28歳の頃、早期退職制度ができると、たまらずすぐに手をあげた。すごいのが退職金を元手に、アメリカNYにアパートを借り、いきなり生活し始めたことだ。もちろん、いつもの通り、アテなど無かった。

「仕事で繋がれないなら、とにかく体だけ海外に持っていっていこうと思った。仕事? いえ、バイトすらせずマンハッタンのアパートでただ生活していた。とにかくNYに住むことが目的でしたから。具体的に何をしていたか? 漫画を読んだり(笑)」

贅沢な引きこもり。潤沢だった退職金は1年で食いつぶした。帰国後、今度は三井物産に就職した。携帯電話の部品を海外に売る商社マンとして、毎週のように、中国、台湾へと飛んだ。30歳で希望が叶った。「まさに海外に繋がる仕事だ!」。けど、元バックパッカーにとって、満ち足りることは、つまらなくなることと同義だった。

スニーカーで起業する。

「オリジナルのスニーカーが安く作れる!」。

足繁く通う世界の工場で、ある日、そんな話を耳にした。特別スニーカーが好きだったわけじゃない。けど、ボーナスをつぎ込む程度でオリジナル製品が作れ、売れるなら痛快だと思った。同級生と遊び半分でボーナスをつぎ込み、100足を発注した。デザインも自分たちでやった。副業スニーカーメーカー。コレがまさかのバカ売れとなる。

「販路は楽天でスニーカーを扱っている会社にババッと電話してみつけました。200店ほど電話して、3店舗が『扱うよ』と。すると100足が数ヶ月で完売したんですよ。自分でも驚いたのと同時に『コレはイケる!』と思いましたよ。そこで独立を決意したんです。世界的なスニーカーメーカーとしてナイキを超えてやろう! って」

この「ナイキ超え」の志しと実績が評価された。当時はまだ投資熱が高かったこともあり、トントン拍子でベンチャーキャピタルの出資を得る。2005年、物産を飛び出して、安藤さんは株式会社TORICOを立ち上げた。「世界をトリコにする」。そんな意味を社名に込めた。潤沢な軍資金を手にして一気に増産。大々的に売り出した。そして、モノの見事に“失敗”する。

『漫画全巻ドットコム秋葉原店』店内。ここだけで300セット。市川の倉庫には8万冊の在庫がある


「今度は驚くほど売れなかった。100足完売がウソのように、月2~3足がやっと。結局、『おもしろいスニーカーだ』『珍しいスニーカーだから』と手を出す人が、日本に100人はいた。またきっと100人しかいなかったんでしょう」

頭を抱えた。会社の事務所は中野区にある小さなアパートの一室。そこには溢れるスニーカーの箱があった。そもそも「そんなに好きじゃなかったモノ」だ。不良在庫になったそれはさらにキライなモノに映った。じゃあ、スキなモノを仕事にしたら?――。

「山積みのスニーカーを眺めながら、身近な、分かる範囲のところからアイデアを練ろうと考えたんです。何もカッコつけずにね」

じゃあ本当に「自分が好きなもの」は? それでいて「在庫がいらない」ビジネスは? すると慣れ親しんだライフスタイルに辿り着いた。アメリカでも実践したアレだ。

「そう。『ひきこもり』です」

後編につづく

【働いている場所】
千代田区外神田1-8-7-401
「漫画★全巻ドットコム 秋葉原店」

定休日:月~水
TEL:03-3254-4220

http://mangazenkan.com/


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第4回 取材中、眠っちゃいました。

取材日当日、インタビュアーが絶対にしてはならないものの一つに「遅刻」があります。
いうまでもなく、それはインタビュアーというより、社会人として最低限のマナー。
「話を聞かせろ」「時間くれ」と自ら図々しいことを頼んでおいて、約束の時間より遅れて登場するとは、失礼極まりないわけです。
さらに、取材場所はたいてい「相手のホーム」である場合が多いもの。サッカーでもアウェイ会場では力を存分に発揮できません。慣れない場所で慣れないまま試合にのぞんではインタビューもぐだぐだに。ひいてはその後手がける原稿のデキも左右する、というわけです。
だからして、私はなるべく早めに取材先に向かい、例えばそこが会社ならロビーでちょっと時間をつぶし。場の雰囲気に存分になれ、気持ちのウォーミングアップをすませたうえで、約束の5分前くらいに「取材で伺いました、カデナクリエイトの…」と受付に向かいます。
普段なら――。
その日、恐ろしい時間に、恐ろしい電話がかかってきました。
「箱田さん、いまどちらですか?」
聞こえてきたのは担当編集者の声。
時計を見ると午後の2時。
それはまさに取材開始時刻。
某飲食店のオーナーに「店の立ち上げまでの苦労やアツい人生観などを伺う」という某雑誌のいちコーナーの取材時刻が、まさにそのとき、その時刻なのでありました。
「いまどちらですか?」の問いに、まさか「自宅のベッドの中です」と正直に答えることなどできませんでした。
「すいません! 前の打ち合わせが長引いちゃって、いまやっと終わったんです! これから伺います!!」
間違いだったのは前日、というかその日の朝10時くらいにやっと原稿を入れて、風呂に入って、「ちょっと小一時間ほど仮眠をとろう…」なんて甘い見積もりで夢の中へ入ったことでした。とにかく、速攻で着替えて、家を飛び出し、タクシーをひろい、急いで取材先へ。おもいきり40分以上も遅れて取材先へたどり着きました。
おお、良かった。取材対象である店長さんも、広報さんも、担当編集者もカメラマンも皆で楽しそうに談笑している。笑顔で迎えてくれました。
「いやいや、すいませ~ん。思った以上に前の打ち合わせが長くて、途中で電話もできなかくて…」。実にウソくさい謝罪という名のいいわけを済ませ、すぐにインタビューへ。
その方は以前はセミプロのミュージシャンとして活躍。しかし、結婚して子供もできて、年齢的にも無理できなくなって、これまでの夢をあきらめました。しかし、今度は新たな夢を追いかけようと決めて、一生懸命修行して飲食店の店長になった……と、感動的なお話をしてくれていました。
「自分がしたことで、目の前の誰かが喜んでくれる。これって音楽も料理も一緒なんじゃないかなって……」(取材対象)
「なるほどね~……」(私)
その部屋が暖房が効きすぎていたところもあると思うのです。
耳障りのいいボサノバ系のBGMもいかんのですよ。
私のもとに二度目の危機が訪れました。
「ね~…」と語尾を伸ばし、目をつむったら最後、瞼が開きません!
まだ完全に起ききれていないところで、目を閉じるという行為をはたらいたところ、睡眠欲のスイッチが突然オンになったのです。
眠い。ヤバイ。マズい。
あせっても、あせっても、目があかないのです。(ダメ)人間だもの。
「…………(ぐぅ)」
あ、ちょっといびきすらかいた気がします! イカンと、気合いをふりしぼり、なんとか声をひり出します。
「す…そ…そうですよね~……」
ダメだ。それでも目が開かない。しかたないので鼻をすすり、目頭をおさえます。『私はいま、声が出ないほどの大きな感動を味わっているのだ』のサイン。そんな小芝居でごまかしつつ、ギュギュ~っと、渾身の力で眉間をつねりました。ぶはっ! なんとか目が開いた!
「…ところで、このお店をはじめられる前のご職業は?」
「それ、さっきも答えましたけど(怒)」
取材日当日、インタビュアーが絶対にしてはならないものの一つに「居眠り」があります。
いうまでもなく、それは社会人というよりも、人として最低限のマナーです。
■今回の失格言
「遅刻」して、しかも「眠る」じゃあ、人間失格。


『裏方ほどおいしい仕事はない!』をやってみた。(後編)

裏方ほどおいしい仕事はない!編集部のメンバーが最近読んだ“シゴトに関する書籍”を自ら実践。その「はたらき心地」をレポートするという、安易なプラグマティズムにもとづいた書評コーナーなのです。
<今回のやってみた本>
『裏方ほどおいしい仕事はない!』(野村恭彦/プレジデント社)
<今回のやってみた人>
箱田

「雪かき仕事」を実際にやってみた

地味で大変だから、誰しもやりたくない「雪かき仕事」。そんな“事務局”的な地味な仕事を黙々と遂行することが、オレオレ的なモチベーションがはびこる現代の組織では、むしろ目立つ。結果として権限がなくとも、人を動かし、組織を動かすことになる――。
野村恭彦氏の『裏方ほどおいしい仕事はない!』にインスパイアされ、さっそく雪かき仕事を実践することにした。本書によれば、「雪かき仕事はどこにでも転がっている」という。
例えば朝一番に職場についてホワイトボードをきれいに消して、マーカーが使えるかどうかを確認する。色の出ないものは捨てて、新しいものを並べる。
例えば会議があれば「議事録とります」とパソコンでメモをとり、会議が終わった後ですぐさま参加者全員に送信する。
例えば周囲の同僚に「何か手伝うことある?」と声をかけてまわり、あったなら手伝い、なければ「何かあったら言ってね」と伝える。
いかがだろう。どれをとっても「裏がアリそう」に見えるのは、僕が汚れちまっているからだろうか。「なにをたくらんでいるんだ?」なんていぶかしがられそうだ。しかし、それこそが雪かき仕事で、また巡り巡って大きなリターンが期待できるのだという。
「そんな悪いですよ。私もホワイトボードふきます!」「議事録サンキュー! 助かったよ。今度はオレがやるよ」「いやいや、むしろ今度は僕が手伝いますよ」。こんな風に「人のために動く」雪かき仕事が、実は「人を動かす」ことになる。
こうした雪かき仕事が多大なリターンに繋がる理由を、本書はパウロ・コウリーニョというブラジル人作家が示した『恩義の銀行』という考え方で裏付けている。人は自分の人生で誰かのために何かをしてあげることで、恩義の銀行へ貯金をしている。何かしてもらうときに、その貯金を下ろしている。実はこうした「助けられた恩義」のほうが、「金銭的な損得」よりもずっと人を動かす力がある、というわけだ。
考えてみれば、そうだ。相手が自分のために何かをしてくれたとき、チップでも払ってしまえば、それは「サービス」となり、気兼ねもなくなる。しかし、対価を求められないとなると「いやはや、何だか悪いですな!」という負い目が途端に芽生えるものだ。タダより高いものはない、なんて言葉もあるが、つまりはそんな無償の恩義こそ重く、価値が高いということかもしれない。なるほど、と納得したところで、僕が試してみた雪かき仕事はコレだ。
『オフィスのトイレ&床掃除』。
おお~。いかにも「雪かきズム」に溢れた作業といえないだろうか? 我がカデナクリエイトは、アルバイトスタッフを入れても総勢5~6名程度の小所帯。オフィスなんていってもマンションの一室を改装したに過ぎない。なもんで、放っておくと紙資料の断片やら、綿ボコリやら、髪の毛やらが錯乱し、実に気分が悪くなる。しかし、共有空間とは実にあいまいなもので、確かにみんなのものではあるが、自分だけのものじゃない。まさに雪かき仕事のフィールドである。だからして、結局普段は「バイトくん、やっておいてくれたまえ」とこんなときばかり権限を行使するのが定番なのだった。
ところが、最近はアルバイトスタッフが出勤しない日も多かったりする。自ずと掃除は滞る。当然、いろんな毛がつもる。結果、ぼんやりと不快な気分がオフィスに積もり、生産性も低くなっている、気がした。そこで毎朝、幾分早めに出社。と同時にトイレと床をささっと掃くことを自分に課した。最初は「面倒だ」「汚いな」と思った。が、どうだろう。実際にからだを動かしてしまうと、あら不思議。コレが意外に気持ちいいのだ。しかも自分でキレイにしてみると、汚すのが惜しくなるから、当たり前のように出社→掃除という流れが体にたたき込まれる。しかも社内の誰より早く出社して、密かに皆がいやがる雪かき仕事をしている、というストイックな自分に、何だかいとおしさすら感じてきた。
「オレっていい奴だな~」
もっとも、2週、3週、4週と、黙々と掃除してきた頃、思った。

裏方であることの葛藤――。

「もしや……誰もオレがいい奴だってことに気づいていないのでは!?」
誰もいない朝のオフィスでクイックルワイパーをかける。トイレの中に籠もっていそいそと便器をふく。キレイになったところで実に孤独なのである。思わず「ありゃ? 今日は何だかトイレがキレイじゃないかい!」「ややっ、そのテーブルの下、なぜかホコリひとつないねぇ!」などと、これみよがしに口走りたくなってきた。
しかし、ココが耐えどころだ。だって、それをやったら「オレオレ」な人と何も変わらないから。「あいつめんどくさい奴だなあ」と思われるだけだ。なんて、自問自答するうち、気づいた。考えてみたら、僕が気づいていなかっただけで、周囲も密かにすでに雪かき仕事をしてるんじゃないか? と。
「そういえばあいつは言わずともゴミ出ししてくれてるな」「ああ、あの人は密かに購買部的仕事してくてるじゃんか」「彼はあの仕事、言われずとも黙々とやってんなあ…」なんて具合に。振り返ると、同僚たちの“見えざる雪かきの手”を感じられるようになってきた。そして、そんな姿に気づくとまた、自分も雪かきしよう! と強く思う。おっと、これこそ、まさにこれぞ事務局力の効用ではないか。ぐるぐると巡り巡って、自分に戻る。雪かきすると、雪かかれる。雪かかれると、雪かきたくなる、みたいな。
ちなみに本書では、もっと具体的かつ効果的に事務局力を発揮できる「仕掛け」について書かれている。「鍋奉行ホワイトボード――会議のときはとにかくホワイトボードの前に立って、鍋奉行よろしく全員の満足を常に考えながらバランスよく全員の発言を促す」とか、「内職プレゼンテーション――会議の最後15分くらいは密かにテーブルから離れてサマリーチャートを作り、しれっと終了前に公開。その際に自分の意見をさりげなく誰かの意見として混ぜ込んでおく」とか。
それぞれ瞬時に劇的に組織を変える類の仕掛けではないが、だまされたと思って、実践してみてほしい。どんな形であれ、じわじわと雪かきの力を実感できるはずだ。
それにしても満足なのは、この記事を書いたおかげで「僕が密かにトイレ&床掃除をしている」ということをイヤミなく社内の人々に伝えられたことである(←だからダメ)。

裏方ほどおいしい仕事はない!

裏方ほどおいしい仕事はない!

  • 作者: 野村 恭彦
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2009/10/15
  • メディア: 単行本




『裏方ほどおいしい仕事はない!』をやってみた。(前編)

裏方ほどおいしい仕事はない!編集部のメンバーが最近読んだ“シゴトに関する書籍”を自ら実践。その「はたらき心地」をレポートするという、安易なプラグマティズムにもとづいた書評コーナーなのです。
<今回のやってみた本>
『裏方ほどおいしい仕事はない!』(野村恭彦/プレジデント社)
<今回のやってみた人>
箱田

“事務局力”を発動してみた。

まず帯にある「事務局力」の言葉にそそられる。
事務局とはいうまでもなく「ある目的を遂行するために期間限定で集まった組織の運営を取り仕切る機関」のこと。
だからその仕事は、たいがいメンバーのスケジュール管理やら、会議の進行やら、弁当の手配やら――「え、山田さん、欠席なの?(今日のミーティング意味ねえじゃんか…)」「なに、部長って、魚だめなの?(シャケ弁ばかりにしちゃったよ…)」――と、少し妄想しただけでも、いかにも地味だ。その割に実にめんどくさそうだ。加えて、なんというか、とてもクリエイティビティなど発揮できなさそうにも思える。
 だからこそ、一般的に、「事務局=損な役回り」とされているわけだ。
しかし、本書は、そんなステレオタイプに「否!」と説く。
そして「事務局が戦略的に動けば、組織を巧みに動かすことができる」と続ける。
ロジックはこうだ。
世の中には地味で大変だから、誰しもやりたくない仕事=「雪かき仕事」がある。

しかし、「雪かき」は、誰かがやらないとみんなが困る。事故も起きるかも。

つまり、「雪かき」のような地味な仕事こそが、社会の秩序を保っている。

会社でも同じ。
議事録書きや、ホワイトボード拭き、弁当の手配などといった「雪かき仕事」=「事務局仕事」を率先してやることが、会社の秩序を保つのだ!

いわば事務局はビジネスプロデューサー。

権限や肩書きなどなくとも、事務局力があれば、チームを会社を活性化し、さらにイノベーティブな組織体へと変貌させられるのだ!
著者の野村恭彦氏は、富士ゼロックスのナレッジ・サービス事業(KDI)を立ち上げ、現在もシニアマネージャーを努める人。「イノベーション行動学」という理論に基づき、こうした事務局力の大切さを説きながら、多くの組織を変革してきた。そんな実績に裏打ちされた自信と教養が、独自のユーモアとからまることで、実に心地よく「その気」にさせてくれる。「雪かき仕事がしたい!」と。
短期的な成果を求められる今、派手な仕事ばかり追い求め「オレがオレが」「ホメてホメて」的な利己的な働き方に傾倒する人が目立つことも、“雪かき”の誘因となるようだ。
野村氏は言う。
「なぜなら、地味で目立たない雪かき仕事をやると、逆に『ものすごく目立つ存在になる』からだ。そう、私が伝えたかったのはそこである。雪かき仕事は、本来、誰にもほめられないけれど大切な仕事、という意味であった。でも、そんな仕事を今の組織風土の中で自分からやる人は、絶滅危惧種なみの少なさだ。逆説的なことであるが、ほめられたいなら、雪かき仕事をしたらいい。ただし、黙々と。」
いわば逆張り。いまの時代、「目立たない」こそ、目立つわけだ。
「いやいや。僕なんてダメですよ~」「そんな器じゃないですよ~」「ははは…オレなんて口ばっかのカス野郎ですから」なんていつも自嘲気味に自分を評価。安全な場所に身を置いておきながら、その実、密かに「ほめられたい」し「憧れられたい」「蒼井優ちゃんとデートしたい」とゲスな欲望をひたかくしてきた僕にとっては、ことさら響いた。
つまり、雪かき仕事をすれば、蒼井優ちゃんとつきあえるのだ。(←超訳)
そんなわけで、次回はいよいよ雪かき仕事をはじめてみます。
つづく。

裏方ほどおいしい仕事はない!

裏方ほどおいしい仕事はない!

  • 作者: 野村 恭彦
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2009/10/15
  • メディア: 単行本




第1回 はじめに

人の話を「書く」ことは、つまり人の話を「聞く」ということ。
ならば、書く仕事をしている我々は、“聞くプロフェッショナル”といえそうです。
だからして――。
「ああ。それで、聞き上手なのか!」
「人の話をひきだすのがうまいよね~」
なんて、ごくまれに、周囲の方々からそんな言葉をいただいたりもする。
ありがたい話です。
そんなときはいつも通り、答えます。
「いやいや。そんなことないですよ」
「とんでもないです。恐縮です」
そして密かに思っています。
『ええ。伊達に失敗ばかりしていませんよ!』と。
確かに我々スタッフは、年間100人以上の経営者、ビジネスマン、文化人、学者、政治家、スポーツ選手といった方々に、インタビューをさせていただいています。
それは自慢なんかじゃ、ちっともなくて、
ようするに、数多くの方々の前で“やっちゃって”いるのです。
「チラっと言った質問で、取材相手が突然激怒! インタビューが中断したり…」
「『どうなんですか? 海老沢さん』と尋ねた相手が『海老沼さん』だったり…」
「目をつむって感動しているふりをしながら、取材途中に居眠りしちゃったり…」
ビジネスの現場では、よく「コミュニケーションの重要性」が説かれます。
たとえば、M&Aの増加や異業種コラボレーションが増え、他者との円滑なコミュニケーションは業績や成果を大きく左右するようになりました。
ところが、地域コミュニティの崩壊や少子化の影響もあり、「人と話すのが苦手」という若いビジネスマンは増えています。
加えて、メールやネットが浸透して、むしろ「面と向かっての会話がどうも…」という方も多くなっている気がします。
とどのつまり、コミュニケーション力というか、ヒアリング能力、
言ってしまえば「インタビュー力」をあげるニーズが盛り上がっているように考えます。
そこで、我々の出番ですよ。
「インタビュー力をあげる方法、教えます!」
ちょっと待て。お前らは失敗ばかりなんじゃなかったか? と思われる向きにあえて言います。
「だからこそだ!」と。
人は自慢話なんかより、失敗談にこそ耳を傾けるものです。
「こんなに儲けたぜ!」って自慢より、「大損した!」って話しのほうが誰かに話したくなりませんか?
ノロケ話より、失恋話のほうが聞きたいですよね?
つまり、このコーナーでは、今後、僕らインタビューのプロが、思いっきりやらかした失敗談をご紹介。
読むみなさんは、「バカだな」「ダメだな」「アマチュアだな」とあきれながらも、気が付けば「オレはこんなことはやらんぞ!」と反面教師的に“ヒアリング能力”“聞く技術”が身に付く、という画期的かつ読者任せの仕事力UPコーナーになっております。
そのままマネてはいけません。