『ビジネスパーソンの誘う技術』をやってみた。

ビジネスパーソンの誘う技術

<今回のやってみた本>
『ビジネスパーソンの誘う技術』(ベリッシモ・フランチェスコ/著 ダイヤモンド社)

<今回のやってみた人>
箱田高樹

パスを出さないイタリア人の本。

タイトルに、誘われてしまった。

著者はローマ生まれのイタリア人、ベリッシモ・フランチェスコ氏。

テレビや雑誌で活躍する売れっ子イタリア料理研究家でナンパなチャラい外国人として有名だが、実は個人的な友人でもある。

ベリッシモは僕が監督を努めるフットサルチームのチームメイトで、エースナンバーの10番を背負っているのだ。

その責務からか性格からか、試合にはいつも前のめりでのぞみ「俺が俺が…」とゴールを狙う。それでいて、どう考えて入らない角度からでもシュートを打ち込み、やはり外してしまうという、実に気持ちのいいイタリア男である。

本出す前に、パスを出せ。

とも思ったが、今回そんな彼が出した著作が、これまでのようなレシピ本ではなく『ビジネスパーソンの誘う技術』という名のビジネス書ということで、思わず手が出てしまった。

「これは信用できる」。
そう思ったからだ。

なにせベリッシモは、先に述べたように、女性とみればみさかいなく声をかけ、誘いまくる生粋のナンパ師。
それより何より、実は彼が、そんな「誘う」テクニックと行動力を駆使して、まさに現在の人気を手にしたことを知っているからである。

「どうすれば日本で有名になれるか」「テレビや雑誌に出られるか」「料理研究家として人気が出るか」――。

出会った頃はまだ学生だった気がするが、ベリッシモはよくそんなことをフットサル後の打ち上げの場で口にしていた。

そして事務所などに属さず、とにかく制作会社や出版社に売り込んでいたのである。コネもないし、マネージャーもいないから、とにかく自ら電話でアポをとって営業。「こんな企画どうですか」「僕はこんなことができますよ」と、地道に誘いまくる手法をとってきたのだ。

でもって気がつけば、たまに女性誌の料理コーナーや、外国人がひな壇に座るテレビのバラエティ番組などで顔を見かけるようになり、いつの間にやら「ベリッシモだ!」などと試合中に相手チームから声をかけられるようになっていた。

こうしてベリッシモは自分を上手に売り込んで、今の地位を自ら得た。
誘うことで、人生を切り開いたわけだ。
相変わらず、パスは出さないけれど。

そんなわけだから、彼が書いた『誘う技術』のノウハウ。オンにもオフにも使える戦略と実行力をぜひ学びたい。そう思った次第である。

みんな誘われるのを持っている。

というわけで、本書を開く。
ベリッシモならではの、女性を誘うときに試したいテクニックや心構えがズラリと並ぶ。

「なぜ、自分を誘ったのか、その理由がはっきりしたほうがいい。誘われた側もOKしやすいからです」
「誘うときは相手がどういう人かを考えて、どういうメリットを提示できるかを考えましょう」
「会話では過去の話をするな。未来の話をしましょう。これから何かが起きそうな場所に人は惹かれる、僕の誘いに乗るといいことがあるよという話をすべき」
といった具合だ。

そして彼は続ける。
「実はこうして誘うことが“相手を知る“ことになる。結果、チャンスが生まれることになる」

なるほど。
これはビジネスにおいてでも一緒だ。
商品の売り込みや企画の提案は、最初は断られることが多いけど、しっかりとプレゼンをすればフィードバックがある。「ここがダメ」「それはいらない」「こうなればいい」。それはすなわち相手のニーズやウォンツにほかならない。そこで得た意見を踏まえてカイゼンすれば、少なくとも次は前よりは相手の気持ちをおもんぱかった提案ができるはずだ。成功確率があがるというわけだ。

実際、ベリッシモはこうしてマスコミ関係者にアポをとったあと、彼らの言葉を踏まえて自分を見直し、キャラづけや企画内容を変えて、何度も何度も「誘った」のだという。
えらいなあ。

とまあ、こんな風に、単にナンパの指南書なのではなく、仕事に活かせる思考やノウハウを随時挟み込んでくるのがおもしろい。

また文中に
『凧を持っているなら、まず走れ』(風を待つよりも、自分が走らないと始まらない。つまりしのごの考えてないでまず誘え、ということ)
『肉でも、魚でもない』(食事のメインディッシュは肉か魚かのどちらか。そのどちらでもない中途半端な人間は食べてもらえない。自分のキャラをしっかりと持て!)
などと、イタリアのことわざをちょいちょい挟み込んでくるのも新鮮だ。

もっとも、本書で僕の心に一番響いたのは、この辺りだった。以下抜粋。

誘うタイミングは「早ければ早いほうがいい」。スケジュールをおさえるにはそれが一番だからです。仕事にしろ、デートにしろ、先にオファーしたほうが優先されるのは、当たり前のことです。後回しにするとだいたい状況は悪くなる。「忙しいのではないか?」「機嫌が悪いんじゃないか?。そんな勝手な妄想が膨らむからです。

確かにそうだ。アポ取りなんかまさにこれ。タイミングを見計らって…なんて考えているうちに、相手の予定は埋まりがち。断られるにしても早いほうがいいから、とにかくあたるのが鉄則。なのに、プライベートだとあれこれ考えて、奥手になるのはなぜだろう。ああ、納期が無いからかもな。
いずれにしても、誘いたかったら「すぐ誘う」のが鉄則かつ成功率が高いわけだ。

加えて、あとがきのココも響いた。以下抜粋。

…お伝えしたいこと。それは『みんな誘われるのを待っている』ということです。人は誰かに声をかけられたり、誘われたりすることに喜びを感じます。必要とされるのは誰でもうれしいことだからです。

そうなんだよね。なんか「誘ったら嫌がられるんじゃないか」とか思いがちだけど、裏っ返せば、自分は誰かに誘われたい、とは思っていたりする。ようするに、「誘ったらうれしいと思ってくれる人は多い」ということにほかならないのだ。
もちろん、断られたり、嫌がられたりということもあるだろうけど、改めてそう気付かされた。ベリッシモありがとう。誘う勇気をもらえたよ。

というわけで、イタリアの種馬から学んだ術を試すべく、難攻不落の相手を誘ってみることにした。相手? もちろん女性である。むふふ。

子持ち女性を、食事に誘ってみた。

『誘う技術』で学んだ通り、思いついたら「すぐ誘う」ことにした。
そして「理由づけ」や「相手のニーズを汲んだ提案」もしっかり添える。
「紳士的に誘う」ことも忘れずに、だ。

早速、自宅のリビングで、1歳半の次男坊に食事をあげる、そのターゲットに声をかけた。

「おはよう。そういえば(←すぐ誘ってみた)、取り引き先にきいたんだけど、代々木上原あたりにいい感じのカフェがあるんだって。ランチがすごく美味いんだって(←理由づけしてみた)。どうよ、あえて出かけて食事でも。『たまには気分転換したい』って言ってたしさ(←ニーズをくんでみた)。子供たちを連れて行ってもいいし、お母さんにみてもらって、夫婦ふたりでもいいし…」

唐突のお誘いに、妻は一瞬戸惑っているようだった。
そうだろう。そうだろう。
何せこちとらイタリア仕込みである。
紳士的に、笑顔かつ優しい声色で誘ってみたしね。

2秒後、妻が口を開いた。
「うーん…パス。行くなら友だちと子供たちと行くわ」

ここでパスきた!(しかもキラーパス)。

ベリッシモくん。ありがとう。
聞くところ所によると、イタリアは家族の絆が強いらしいじゃないですか。
今度は『イタリア流、夫婦仲をよくする技術』みたいな本、書いてくれ。

ビジネスパーソンの誘う技術


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hakoda

hakoda について

1972年新潟県生まれ。『月刊BIG tomorrow』『Discover Japan』『週刊東洋経済』等で、働き方、経営、ライフスタイル等に関する記事を寄稿。著書に『図解&事例で学ぶイノベーションの教科書』『クイズ商売脳の鍛え方』(共著)、『カジュアル起業』(単著)などがある。好物は柿ピー。『New Work Times』編集長心得。