PHP研究所発行のビジネス誌『THE21』2011年11月号(10/10発売)、
特集「できるリーダーの会社を変える力」で、一部記事を執筆しました。
僕が担当したのは、以下のお二人の記事です。
★住生活グループ&LIXIL社長・藤森義明氏
→前職はアメリカ・GEの上席副社長。今年8月から新社長に就任
★楠木ライフ&キャリア研究所代表・楠木新氏
→ 著書『人事部は見ている。』が発売3カ月で12万部のヒット
よろしければ、コンビニなどでご一読を!
インドのメーカーがつくっていたのは、もちろん模造刀だ。しかし、日本の銃刀法では、たとえ模造品で刃がついてなくとも、刀剣部分が鉄製だと、それを所有するものは銃刀法違反になることは知っていた。
「仕方ない諦めるか…」
指を咥えて諦めるのが普通である。しかし、磯野さんは普通じゃないのだ。
「ああ、素材を変えれば手に入れられるんじゃないか、って。それ作ってもらおうとピンときた」
銃刀法を細かく調べると、鉄以外の軟らかく安全な「亜鉛」などの素材であれば、問題なく輸入、所有ができると知った。当時、サラリーマンとして海外の雑貨を卸し、簡単な貿易のやりとりや、別注のハードルが低いことを知っていたのも後押しとなった。
『鉄じゃなく、卑金属で作り直せないか?』。インドのメーカーへメールを出すと、すぐに返ってきた。『OK。ただし…』。
「『数本じゃムリだが、ある程度大量に発注してくれるなら作り替えて、送れるよ』と。僕が欲しいのは自分の分と友人の分の2本だけだったから、どうしようかなあ、と悩んだけれど」
たどり着いた声は簡単だった。「あまった分は売ればいい」。
「もちろん、数万人単位のパイを狙うならそうはいかない。リアルな武器を求めるなんて、多く見積もっても1000人くらいのちいさな市場ですよ。けれど、だからこそ、自分の『好き』をそのまま投影させたモノづくりができると考えた。それくらいの範囲なら手に取るように欲しいもの、求めるものが分かるから……」
そうしてなけなしの貯金を元手に、ウン十本の別注品を発注してしまう。本業の仕事に飽き、何か別の仕事を、と思っていた頃でもあった。磯野さんは会社をやめ、ネットオークションを販路に武器屋をスタートさせた。本物そっくりの光を放つインド製の刀剣を別注し、ネットを介して売り始めたわけだ。
『待ってました!』
あきらめていたらリアルな刀が、日本でも買えるとあり、すぐに注文が殺到した。さらにミリタリー雑誌に広告を出すと、注文はさらに折り重なった。ただし、どうしても「モノが見てみたい」という声も少なくなかった。実店舗を出すならどこがいいか? できれば、都心で、人が集まる場で――。
「そうなると、秋葉原だったんですよね。秋葉原は商業地としては一等地。しかもミリタリー系のショップもいくつかあるし、親和性も高い。さらに……」
顧客リストをみるとゲームやアニメのファンが多いことに気づいたからだ。磯野さん同様の歴史、軍事史好き、もしくはリエナクトメントの愛好家よりむしろ、圧倒的な数があった。アニメ、ゲームなら、秋葉原は世界の聖地だ。
「そこで2004年、今の場所に『武器屋』を起ち上げたんです。先述通り、彼らもリアルを求めるわけですからね。たとえ空想の格好でも、むしろ空想の格好だからこそ、細部にリアルなものを配す必要がある。それは映画と全く同じ。だから、僕は同時に仕入れやモノづくりは妥協しないことが最も大事だなと感じた」
6年前、大学に戻って、院生としてあらためて政治史、軍事史を学んだのもそのためだ。独学のみならず、学術的なバックボーンを得て、さらに武器の知識を得たわけだ。
「単なる武器好きや、あるいはアヤしげな人間ではなく“学術的な研究者である”ということは担保にもなった。銀行に資金を借りる際の信用になりましたからね」
こうして古今東西の武器の知見と、古今東西の仕入れルートと、商品としての模造武器が揃う『武器屋』は、いつしか武器好きを古今東西から集めるようになったわけだ。
すごいのが、本当に『映画会社の小道具部屋』になったことだ。
『幕末の武器はどうなっていたか?』『進駐軍の制服は?』――。そんな悩みをもっていた映画の助監督やテレビのADが、『武器屋』にたどり着いた。
「すると、僕がいて、武器がありますからね。モノも答えも手に入る。おかげさまでご協力させていただくことになりはじめたんですよ」
例えばSMAPの中居正広氏主演の映画『私は貝になりたい』。衣装や小道具の提供、さらに軍事史的な時代考証の担当をしたのは、磯野さんだ。
「中居くんのブーツとか本当に帝国陸軍のデッドストックをみつけて提供しました。太平洋戦争の召集令状も、進駐軍のMPのヘルメットもすべて破綻がない」
「最近では橋田壽賀子さんが書いたTBSの開局60周年記念ドラマ『 99年の愛 ~JAPANESE AMERICANS~ジャパニーズ・アメリカン』も手伝いました。史実に近い当時の米国陸軍が日本のテレビで初めて登場したと思う。番組を観たアメリカ人から『442連隊をここまで忠実に再現するとは!』というコメントがテレビ局に届いたようです。うれしいですよね」
前半で「(リエナクトメントの市場が小さい)日本では映画の衣裳も小道具も間違いだらけ“だった”」と過去形で書いたのは、このためだ。実は、『武器屋』の、磯野さんの登場によって、ぐぐっと歴史もの、軍事ものの小道具の質が高まった。細部に神が宿るのならば、磯野さんはいろんな作品に、神を宿させているというわけだ。
「そこは自信があります。少なくとも、進駐軍が自衛隊の迷彩ヘルメットや服を着用する事はありません(笑)」
「コスプレしたい」「武器が好き」からはじまって、今は日本映画、日本文化を密かに牽引する役割を担っている。大げさに書いたわけじゃなく、実際、年内『武器屋』はパリにも出店する。
「日本文化を海外に紹介するジャパンエキスポに参加するようになって、そこから得た人脈で『出店してほしい!』という声があったので、はじめるんです。もっとも、パリでは武器だけじゃなくて、日本茶なども多く売る予定(笑)。というのは、同じなんですよ。いま、海外で日本料理がブームといわれているけど、ほとんどは中国人や韓国人が作っている。実はフランスには本物のお茶がほとんど無い、『本物を売ってくれ!』って」
本物を欲す人に、本物を届ける――。
あれ、考えてみればふつうのことだ。
訂正します。
磯野さんも武器屋もふつうで、他がおかしいのかもしれない。
■あなたにとって「秋葉原」とは?
高校生時代からの遊び場。駅が改装される前に飾っていた広告の場所は皮肉にも学生時代のバイト先の看板があったとこ
■秋葉原でよく使うランチの店は?
ラーメン屋の『萬楽』。江戸っ子な娘さんが元気をくれます
■今の仕事をしていて良かったなと思う瞬間は?
お客様が嬉しそうな顔して帰る時。
あと、自律神経失調症で立てなかった子が武器屋に行きたいという一心で4階まで上がってきたとき
【働いている場所】
千代田区外神田1-5-7宝ビル402
「武器屋」
http://www.wbr.co.jp/bukiya.htm
大きな地図で見る
まるで「中世の城内」というか、「RPGの舞台」というか、何なら「東宝の小道具部屋」のようにも見える。
秋葉原の明神下交差点近く、元ザ・コンの裏にある『武器屋』のことだ。
10坪強の店内。ガラスケースや壁や棚には十字軍のソードや英国海軍のサーベルや日本刀などの武器が並ぶ。
武器類はもちろん模造品(軍服などは本物)で、すべてが同店の商品だ。鈍く光る刃の輝きが、かつて味わったチャンバラごっこの高揚感と、戦争映画を観た後の興奮と、用途不明なまま木刀を買った修学旅行生の無邪気さを思い出させる。
ようするに『武器屋』は、大人を少年にし、その少年を武士や忍者や勇者にしてくれる、やはりRPGの舞台のような場、というわけだ。
「商品は全部で400アイテムくらいありますね。売れ筋商品? そうですねえ…」
そしてオーナーの磯野圭作さんは、両刃の剣のサヤを抜きながら、言った。
「(しゃりん!)このエクスカリバーは結構出ますね。アーサー王が使ったというあの剣。そう。岩に突き刺さっている奴ね。伝説の剣だけど、うちなら1万5000円で買えますから(笑)」
店は雑居ビルの4階で、決して入りやすい場所ではない。しかし、取材中もひっきりなしに来店客があった。
「コスプレイヤーの方が多いんですよ」
言うまでもなく、秋葉原はアニメやゲームといったコスプレ文化の集積地。同人誌やコスプレ衣装を購入するついでに、『緋村剣心の使っている刀あります?』『コスモドラグーンが欲しいんですけど…』と『武器屋』の門を叩くわけだ。
「あとは“リエナクトメント”の愛好者の方もよくいらっしゃいますね」
リエナクトメントとは南北戦争とか第二次世界大戦とか朝鮮戦争とか、実際にあった戦争での戦いを、当時の武装&シナリオで追体験するというコスプリッシュなホビーのことだ。日本ではマイナーだが欧米では相当にポピュラーな趣味で、ワーテルローの戦いのリエナクトメントなんて20万人くらい集まって戦闘(ごっこ)をするらしい。
「ちなみに欧米ではこのリエナクトメントの市場が大きいから軍事史ものの映画が多い。確実な観客が見込めますからね。まただからこそ本物に近い装備を史実に乗っ取って使わないとそっぽを向かれる。だから小道具なんかの作り込みもしっかりしているんです」
逆に日本ではこうした文化が無いし、終戦記念ドラマだからと思想を持って映画やドラマを作るから衣裳も小道具も間違いだらけだったという。例えばドラマで「第二次大戦の頃の米兵」が、自衛隊の迷彩のヘルメットを被っていたりする。
「ゲーム好きでも、映画好きでも、歴史好きでも、何にしても『より本物に近づきたい!』という欲求があるじゃないですか? 細部に神は宿るもの。いくらリアルな衣装をきても、手にする武器が偽物っぽかったり、安っぽかったりしたら台なしになりますからね」
熱っぽく語るわけは、何を隠そう、磯野さん自身の『コスプレしたい!』という欲求が、この武器屋誕生のきっかけの一つでもあるからだ。
もっとも、目指したキャラクターが、実に男らしい、いや、漢らしいのが、磯野さんらしい。
「カッコイイ! あんな格好してみたいよな!!」
2000年公開のハリウッド映画『グラディエーター』鑑賞後、友人と盛り上がった。古代ローマの剣闘士の姿を描いた超大作。使い込んだ甲冑と、重々しさが画面からにじみ出る両刃の剣や斧が、そもそも“武器&軍事史好き”だった磯野さんの心をとらえたからだ。
「小学生時代から武器と歴史にハマって、学生時代からずっと図書館にこもっては、武器と歴史について研究するのが趣味だったんです。きっかけはやはり映画。小学生くらいのころにみた『二百三高地』や『遠すぎた橋』といった戦争映画でしたよね」
モノとしてのかっこ良さに惚れただけじゃなかった。戦車やライフル、サーベルや軍服から、活き活きとした“史実”が見えることにそそられたという。機能美を最も求められる武器・武具は、用途や使用環境といった背景が、どんなプロダクトよりも如実に宿るからだ。
「例えば、英国海軍の制服がなぜ世界の海軍にまねされるほどデザイン性が高いかというと、イギリスに徴兵制がなかったからなんですよ。ようするに『あれを着てみたい!』と思わせるため、誰しも憧れるような意匠をほどこしたわけです。例えば、なぜ日本はヨーロッパではなくアメリカから戦闘機を買うのか。それは日本の領土は約4000kmもの長さがあるからです。領土の真ん中に基地があるとして、2000Kmの航続距離が必要になる。けど、例えばフランスはパリから円を描いても500km飛べれば、制空権は足りる。つまり長距離を飛ぶことを想定しない仏軍の戦闘機を入れたら守れないわけですよ。あとね、銃剣のことをバイヨネットと呼ぶのは、スイスのバイヨン村で……」
……いずれにしても武器&軍事史がライフワークな磯野さんにとって、『グラディエーター』のすばらしく作りこまれた武器たちは、大いに物欲を刺激したわけだ。
「しかもネットで調べると、映画の撮影用小道具をつくるインドのメーカーが、撮影で使ったもの同じ商品、それをプロップと呼ぶのですが、それを一般向けに販売していたんです。『コレは買いだ!』と、さっそく発注したのですが、大きな障害がありまして」
銃刀法だった。
(後編へつづく)
こんにちは。
日本経営合理化協会AV局のHPで、連載させていただいてる
繁盛店への仕組みと仕掛け『社長の繁盛トレンド』の第69回目がアップされました。
知の巨人(すごい形容…)松岡正剛氏が創り上げた、丸善丸の内本店内の実験的な書店「松丸本舗」をとりあげています。
本好きや業界人の注目度が高いですが、むしろそれ以外の人こそ寄ってみてほしい。
挑戦的な取り組みは、すべての職業人にとって刺激となる仕事場だと思います。
ぜひ!