第4回「なぞり千本!?」グラフィックデザイナー・井上祥邦さん(3)

(竹内三保子/ニューワークタイムズ編集長・カデナクリエイト代表)
「なぞり千本!?」グラフィックデザイナー・井上祥邦さん(1)
「なぞり千本!?」グラフィックデザイナー・井上祥邦さん(2)
「なぞり千本!?」グラフィックデザイナー・井上祥邦さん(3)

人生を変えた素敵な出会い

仕事を辞めた井上さんは、デジタルハリウッドの短期コース『イメージビジュアルコース』に通い始めた。講義があるのは2週間に1回だったので、体力が落ちていても何とか通えたという。
井上:実は最後の会社で働いていた時に、アルバイトで来ていたデジタルハリウッドの学生達が、やたらとその先生の話をしていたんですよ。それで、自分もその先生の講義をちょっと受けてみたいなと漠然と思っていました。
――講義の内容は?
井上:発想方法などを習うコースでした。通ってみると、結構、精神論的な話も多く、その中ですごくいい言葉にも出会いました。
――それは?
井上:『自分を否定しない。他人と比べない。完全を求めない』。それまでの自分は全て逆のことをやっていました。大学時代ダラダラと過ごして時間を無駄にしていたので、社会人になったら、その分を何とか取り戻したいという焦りもありましたしね。あげくの果てに体を壊して働けなくなった。でも、その言葉を聞いて、マイペースというか、『オレはオレだ』みたいなある種開き直りっていうか、スッと心が軽くなりました。それもあったのかな? 3ヶ月くらい休養したらすっかり元に戻りました
就職活動を再開して、グラビア誌中心の出版社にもぐりこんだ。
井上:これまでは、単行本など書籍が中心で、文字組みがメインでした。でも、独立するなら、雑誌やグラビアもできなければ話にならないと思ったわけです。
――グラビアは、書籍とは随分違いますが…。
井上:表現の原点ではないかと思います。文字がほとんどないんですから、あれこそバランス感覚が求められます。本当のバランス感覚は、そこで学んだと思います。
――またトレースを?
井上:いえ。最初は、そのレベルではありませんでした。1枚の写真を眺めていても、その写真の良さを引き出すために、文字を上に置けばいいのか、それとも下に置けばいいのかさっぱり分からない。そんな状態でした。再び0からのスタートでしたね。
――それでは、どんな技術取得のワザを?
井上:ひたすらメモ。たとえばアダルト系だと、なぜくずした文字が多いのか、おどろおどろしく見せるのか? 文字の美しさはどうやれば際だつのか。少ないパーツをどうすれば効果的に見せられるのか? 疑問点や効果的に見せるための要素などをひたすらメモしました。トレースは、それからです。きれいだとか、かっこいいと思ったグラビアを見つけると、そのデザインをひたすらトレース。さらにラフを書くこともあります。そうしながら、『右側のこの文字が全体をひきたてているのか』といった具合に、美しいバランスの要因を分析していくんですよ。
――デザインは、論理的なんですね。
井上:論理的に考えれば、たとえば、お客さんや上司が要求しているデザインよりも、もっとこうした方がいいと思った時に、『欧文を使った方が引き締まる』とか、『写真を1枚増やせば企画の流れが分かりやすくなる』とか、『罫線や文字が入るとバランスがよくなる』と新しい提案の理由を説明できます。自分らしいデザインとは、そうやってつくっていくものだとも思います。
この会社で3年働き、グラビアや雑誌の技術を身につけ、昨年、独立を果たした。
――最初の仕事は何でしたか?
井上:それがですね、実に運命的なんですねぇ。
――もったいぶらないで教えて下さいよ!
井上:一番最初にターニングポイントになった仕事(第3回参照)の某出版社さんに、独立の挨拶に伺ったんですよ。そしたら、担当だった編集の方から『お前に会わせたい人がいる』って。それが、なんと、以前、泣かせちゃった編集者さん。思わず、『本当ですか!? あれ以来、会ってないんですよ!』と大声出しちゃいました。
――それで、それで?
井上:『実は、井上くんにお願いしたい仕事があるんだ』って、独立第一号の仕事をいただきました。本当にドラマチックな再会でした。
――それはいい話ですね! そして、次は、悪夢のようなスケジュールの仕事をウチがお願いしたと(笑)。
井上:本当に、あれはひどいですよ(笑)。何回冷や汗かいたことか…。
――次回は、絶対に、余裕をもったスケジュールにしますから。本日は、ありがとうございました。
■デザイナーになりたい人へ
井上祥邦さんからワンポイントアドバイス

デザイン事務所に入れなくても可能性は十分にあります。秘訣は欲張らないことですね。自分の場合は、アルバイト→営業→DTPオペレーターとデザイナーへの段階を意識して動いてきました。さらにデザイナーになってからは、単行本やグラビア誌や雑誌と仕事の範囲を広げていきました。方向を確かめ、一歩一歩着実に身につけていく。途中でいい出会いも沢山あるし、必ず道は開けます。
■井上さんにとって仕事とは?
「私にとって仕事とは、恩返しです。とくに私の現在の仕事は、これまで関わってきた人から依頼を受けているのがほとんどです。転々とした会社員時代に苦楽を共にした方々が、また私に仕事を依頼してくれるというのはうれしい話です。だから与えられた仕事は、感謝の気持ちを込めてベストを尽くすように心がけています。
あとは「一流の意識が一流を育む」という言葉を仕事の支えにしています。これはデジタルハリウッドの先生からいただいた言葉なんです。
“一流とは他人に認めてもらって初めて一流である。だから自分で言っちゃダメだけど、意識することで一流の振る舞いをするようになる”じつに味わい深いですよね。
ipod tocthの裏にも彫って、毎日仕事をする前に眺めています。
(おわり)

今日のヒラリー
本日は終日ワシントン。午後一番に、深刻な財政危機に見舞われているギリシャのパパンドレウ首相と国務省で会談。その後は、アフリカのガボン共和国のボンゴ大統領とイランの核開発問題などについて話し合った。

カテゴリー: ヒラリーに会いたい | 投稿日: | 投稿者:
takeuchi

takeuchi について

東京生まれ。西武百貨店勤務を経て株式会社カデナクリエイト設立。雑誌、社内報、単行本、webなど媒体問わず執筆。興味の中心は人事制度や社内教育だったが、最近は、インターンシップ、塾、学校など『教育』全般に広がっている。苦手は整理整頓。