『裏方ほどおいしい仕事はない!』をやってみた。(後編)

裏方ほどおいしい仕事はない!編集部のメンバーが最近読んだ“シゴトに関する書籍”を自ら実践。その「はたらき心地」をレポートするという、安易なプラグマティズムにもとづいた書評コーナーなのです。
<今回のやってみた本>
『裏方ほどおいしい仕事はない!』(野村恭彦/プレジデント社)
<今回のやってみた人>
箱田

「雪かき仕事」を実際にやってみた

地味で大変だから、誰しもやりたくない「雪かき仕事」。そんな“事務局”的な地味な仕事を黙々と遂行することが、オレオレ的なモチベーションがはびこる現代の組織では、むしろ目立つ。結果として権限がなくとも、人を動かし、組織を動かすことになる――。
野村恭彦氏の『裏方ほどおいしい仕事はない!』にインスパイアされ、さっそく雪かき仕事を実践することにした。本書によれば、「雪かき仕事はどこにでも転がっている」という。
例えば朝一番に職場についてホワイトボードをきれいに消して、マーカーが使えるかどうかを確認する。色の出ないものは捨てて、新しいものを並べる。
例えば会議があれば「議事録とります」とパソコンでメモをとり、会議が終わった後ですぐさま参加者全員に送信する。
例えば周囲の同僚に「何か手伝うことある?」と声をかけてまわり、あったなら手伝い、なければ「何かあったら言ってね」と伝える。
いかがだろう。どれをとっても「裏がアリそう」に見えるのは、僕が汚れちまっているからだろうか。「なにをたくらんでいるんだ?」なんていぶかしがられそうだ。しかし、それこそが雪かき仕事で、また巡り巡って大きなリターンが期待できるのだという。
「そんな悪いですよ。私もホワイトボードふきます!」「議事録サンキュー! 助かったよ。今度はオレがやるよ」「いやいや、むしろ今度は僕が手伝いますよ」。こんな風に「人のために動く」雪かき仕事が、実は「人を動かす」ことになる。
こうした雪かき仕事が多大なリターンに繋がる理由を、本書はパウロ・コウリーニョというブラジル人作家が示した『恩義の銀行』という考え方で裏付けている。人は自分の人生で誰かのために何かをしてあげることで、恩義の銀行へ貯金をしている。何かしてもらうときに、その貯金を下ろしている。実はこうした「助けられた恩義」のほうが、「金銭的な損得」よりもずっと人を動かす力がある、というわけだ。
考えてみれば、そうだ。相手が自分のために何かをしてくれたとき、チップでも払ってしまえば、それは「サービス」となり、気兼ねもなくなる。しかし、対価を求められないとなると「いやはや、何だか悪いですな!」という負い目が途端に芽生えるものだ。タダより高いものはない、なんて言葉もあるが、つまりはそんな無償の恩義こそ重く、価値が高いということかもしれない。なるほど、と納得したところで、僕が試してみた雪かき仕事はコレだ。
『オフィスのトイレ&床掃除』。
おお~。いかにも「雪かきズム」に溢れた作業といえないだろうか? 我がカデナクリエイトは、アルバイトスタッフを入れても総勢5~6名程度の小所帯。オフィスなんていってもマンションの一室を改装したに過ぎない。なもんで、放っておくと紙資料の断片やら、綿ボコリやら、髪の毛やらが錯乱し、実に気分が悪くなる。しかし、共有空間とは実にあいまいなもので、確かにみんなのものではあるが、自分だけのものじゃない。まさに雪かき仕事のフィールドである。だからして、結局普段は「バイトくん、やっておいてくれたまえ」とこんなときばかり権限を行使するのが定番なのだった。
ところが、最近はアルバイトスタッフが出勤しない日も多かったりする。自ずと掃除は滞る。当然、いろんな毛がつもる。結果、ぼんやりと不快な気分がオフィスに積もり、生産性も低くなっている、気がした。そこで毎朝、幾分早めに出社。と同時にトイレと床をささっと掃くことを自分に課した。最初は「面倒だ」「汚いな」と思った。が、どうだろう。実際にからだを動かしてしまうと、あら不思議。コレが意外に気持ちいいのだ。しかも自分でキレイにしてみると、汚すのが惜しくなるから、当たり前のように出社→掃除という流れが体にたたき込まれる。しかも社内の誰より早く出社して、密かに皆がいやがる雪かき仕事をしている、というストイックな自分に、何だかいとおしさすら感じてきた。
「オレっていい奴だな~」
もっとも、2週、3週、4週と、黙々と掃除してきた頃、思った。

裏方であることの葛藤――。

「もしや……誰もオレがいい奴だってことに気づいていないのでは!?」
誰もいない朝のオフィスでクイックルワイパーをかける。トイレの中に籠もっていそいそと便器をふく。キレイになったところで実に孤独なのである。思わず「ありゃ? 今日は何だかトイレがキレイじゃないかい!」「ややっ、そのテーブルの下、なぜかホコリひとつないねぇ!」などと、これみよがしに口走りたくなってきた。
しかし、ココが耐えどころだ。だって、それをやったら「オレオレ」な人と何も変わらないから。「あいつめんどくさい奴だなあ」と思われるだけだ。なんて、自問自答するうち、気づいた。考えてみたら、僕が気づいていなかっただけで、周囲も密かにすでに雪かき仕事をしてるんじゃないか? と。
「そういえばあいつは言わずともゴミ出ししてくれてるな」「ああ、あの人は密かに購買部的仕事してくてるじゃんか」「彼はあの仕事、言われずとも黙々とやってんなあ…」なんて具合に。振り返ると、同僚たちの“見えざる雪かきの手”を感じられるようになってきた。そして、そんな姿に気づくとまた、自分も雪かきしよう! と強く思う。おっと、これこそ、まさにこれぞ事務局力の効用ではないか。ぐるぐると巡り巡って、自分に戻る。雪かきすると、雪かかれる。雪かかれると、雪かきたくなる、みたいな。
ちなみに本書では、もっと具体的かつ効果的に事務局力を発揮できる「仕掛け」について書かれている。「鍋奉行ホワイトボード――会議のときはとにかくホワイトボードの前に立って、鍋奉行よろしく全員の満足を常に考えながらバランスよく全員の発言を促す」とか、「内職プレゼンテーション――会議の最後15分くらいは密かにテーブルから離れてサマリーチャートを作り、しれっと終了前に公開。その際に自分の意見をさりげなく誰かの意見として混ぜ込んでおく」とか。
それぞれ瞬時に劇的に組織を変える類の仕掛けではないが、だまされたと思って、実践してみてほしい。どんな形であれ、じわじわと雪かきの力を実感できるはずだ。
それにしても満足なのは、この記事を書いたおかげで「僕が密かにトイレ&床掃除をしている」ということをイヤミなく社内の人々に伝えられたことである(←だからダメ)。

裏方ほどおいしい仕事はない!

裏方ほどおいしい仕事はない!

  • 作者: 野村 恭彦
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2009/10/15
  • メディア: 単行本




カテゴリー: この本、やってみました。 | 投稿日: | 投稿者:
hakoda

hakoda について

1972年新潟県生まれ。『月刊BIG tomorrow』『Discover Japan』『週刊東洋経済』等で、働き方、経営、ライフスタイル等に関する記事を寄稿。著書に『図解&事例で学ぶイノベーションの教科書』『クイズ商売脳の鍛え方』(共著)、『カジュアル起業』(単著)などがある。好物は柿ピー。『New Work Times』編集長心得。