第3回「なぞり千本!?」グラフィックデザイナー・井上祥邦さん(2)

(竹内三保子/ニューワークタイムズ編集長・カデナクリエイト代表)
「なぞり千本!?」グラフィックデザイナー・井上祥邦さん(1)
「なぞり千本!?」グラフィックデザイナー・井上祥邦さん(2)
「なぞり千本!?」グラフィックデザイナー・井上祥邦さん(3)

出来のヒドさに編集者が泣いた!?

井上さんはDTPオペレーターの技術を身につけたので、次の会社はすぐにみつかった。デザインとDTPを手がける制作会社だ。
井上:最初は手書きのデザインをデータに起こしたり、すでにデザイナーがつくったデザイン・データに文字を流し込んだり、修正したりする作業をしてました。膨大なデザインを見ているうちに、自我に目覚めてしまったんですね。『自分もデザインがやりたい!』って。
――そうはいっても、DTPオペレーターからデザイナーに転向できた方って、実際には少ないですよね。学校に行かれたのですか?
井上:行きたかったんですけど、とにかくお金がなかった(笑)。デザインの本などを買って自分で勉強しました。本を見て、ひたすら真似をして同じデザインをつくってみる。その繰り返しでしたね。
――その会社で、デザインはさせてもらえたのですか?
井上:はい。そこの会社は初歩的なデザインの仕事は沢山あったので、そうした仕事をちょこちょこさせて頂くようになり、少しずつデザインの仕事を覚えていきました。思い出深いのは、某出版社のタレント本を担当したときのことです。出来があまりに悪くて、作品を見た編集担当者の方を泣かせてしまいました。
――え~!? それでどうされたんですか?
井上:制作会社ごと変えたいと言われましたが、『そこを何とか! 最後までやらしてください!』と。もう必死にお願いしました。そうしたら、『もう一度だけなら』と最後はチャンスをいただけました。
――ダメなデザイン、いいデザインって、どこが違うんですか?
井上:基本的にグラフィック・デザインって、コミュニケーションの手段なんですよ。たとえば文字は縦組と横組があって、縦組なら基本的には読みやすいように右上から左下に流れるようにデザインする。つまり本来は、導線や要素のバランスなど考えた上での設計が必要です。ところが、当時の自分は「伝える」という意識が低く、感覚的にデザインしていた。そこを指摘されたわけです。
――修正後の作品はどうでした?
井上:なんとか合格点。打ち上げにも呼んでいただき、いろいろ話もしました。その時、『デザイナーなら、独立することも考えてもっとがんばれ』と言われました。デザイナー扱いされたのは、すごくうれしかったですね。また、この日を境に『独立』を視野に仕事をするようになりました。ですからこの仕事は、いろいろな意味で自分にとっての大きなターニングポイントになったわけです。

なぞり千本! ビシビシしごく鬼社長

その後、井上さんは企画力で有名な編集プロダクションに転職する。本格的にデザインの腕を磨くためだ。
井上:実は、面接の時に一悶着あった。というのは、履歴書を見ながら、社長が自分の大学をバカにしたんですよ。それで、『自分のことをバカにするのはいいけど、大学のことはバカにするな!』って言い返した。それが逆に評価されて採用されました。そういう熱い社長なんですが、仕事はものすごいスパルタだった。
――たとえば?
井上:入社したら、いきなりいろんなデザインのトレースを片っ端からさせるんですよ。なぜ、ここに罫線があるのか、なぜ、文字はこの大きさなのか…。『トレースしながらバランス感覚を体にたたきこめ! とにかく手を動かして覚えろ!』って。3ヶ月くらいは、本来の仕事が終わってから数時間トレースをしてました。毎日トレースをやらされました。今になると、すごく役だったことが分かりますが、その時は『パソコンでデザインする時代に、なんて前近代的なんだ』と思っていました。
――本格的に仕事を任されるようになったのは?
井上:入社して半年過ぎた頃からですね。ところが、いくらデザインしても『ダメ!』『全然駄目!』『何やってんだ!』と怒鳴られる。20代後半で他人に怒鳴られることってないじゃないですか。精神的にもキツかったし、仕事の量的にもキツかった。
――どのくらいの量をこなしていたんですか?
井上:平均1ヶ月に3冊ペース。デザインをしながらDTPオペレーションもこなしていました。最終的には、数字も意識するようになった。利益率が見えるから目標達成するためには数をこなさないといけない。完全に自分のキャパを越えてました。
――それで、どうなったんですか?
井上:体を壊して、会社を辞めざるをえなくなりました。その時は、本当に『オレはだめなんだ』と思いましたよ。28歳か29歳の時かな? もうすべてを諦め、実家に戻ろうと思ったのですが…。父上に電話をすると『もどってくんな!』と怒られた。
仕事も失い、健康も失い、実家にも戻れなくなった。せっかくデザイナーへの道を歩みだしたのに、再び、井上さんはどん底に落ち込んでしまった。(つづく)
「なぞり千本!?」グラフィックデザイナー・井上祥邦さん(3)

今日のヒラリー
5日間で5カ国を回る大忙しの中南米訪問の旅の真っ最中だ。昨日は、震災のチリを訪問して救援を確約してきた。そして、今日は、ブラジルで、イランの核開発問題などを話し合うそうだ。帰国予定は3月5日。

カテゴリー: ヒラリーに会いたい | 投稿日: | 投稿者:
takeuchi

takeuchi について

東京生まれ。西武百貨店勤務を経て株式会社カデナクリエイト設立。雑誌、社内報、単行本、webなど媒体問わず執筆。興味の中心は人事制度や社内教育だったが、最近は、インターンシップ、塾、学校など『教育』全般に広がっている。苦手は整理整頓。